自我と言葉『虐殺器官』伊藤計劃

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

滅多にSFは読まないものの、前にKindleセールで『ハーモニー』を買って読んでハマった伊藤計劃。今回同じ著者の『虐殺器官』が割引されていたので読んでみた。

あらすじ

主人公は米軍大尉クラヴィス・シェパード。

シェパードは仲間とともに、世界各地で起こる内戦や大量虐殺の首謀者を「暗殺」する任務についていた。あるときシェパードに、ジョン・ポールという男を暗殺するよう命令が下る。その男がいく先々で内戦・大量虐殺が起きているというのだが、指導者や革命家ではなく元言語学者。ジョン・ポールはいったいどうやって虐殺を引き起こしているのか?そしてその目的は・・・?

けっこう小難しい、哲学的な側面のある話。

SFは普段読まないので、どういったのが普通なのかはわからないけど、映画で言うとハリウッドでなく日本映画。ところどころで「ことばとは」「自我とは」といった、言ってしまえばコムズカシイ考察が登場する。個人的にはウェルカムな話題なんだけども、単純にエンターテインメントを求めている人にはジャマな要素かもしれない。

「ことば」が話題になるのは、作中で虐殺の元凶とされているジョン・ポールが元言語学者だから。そしてこの「言語」が作品の重大なキーワードになっている。

舞台になってる世界ではいろんなテクノロジーが進化してて、特に(いい意味で)「気持ち悪いなぁ」と思ったのが、「痛感」。

痛いのはわかるけど、痛くない。

作中では、戦地に行く主人公のシェパードたちはなんと脳の中の「痛覚」だけをシャットアウトする処理を受ける。ちょっと想像できない状態で、「自分が痛みを感じていることは理解できるが、痛みは感じない」という状態になるらしい。

この処置のおかげで、例えば銃で腕を撃たれてしまったときに、ダメージを受けたことは理解しつつも、痛みからくる恐怖で我を忘れたりせず、落ち着いた行動がとれるのだとか。つまり「生きてかえってくる可能性が上がる」ということ。

シェパードはこの処置にどこかしっくりきていない部分があって、「自分とは」みたいなことを考えたりする。このへんは攻殻機動隊の「ゴースト」とかの概念と近いものがある。

攻殻機動隊 - Wikipedia

「自分の感覚とか意識が外からいじれるんだとしたら、じゃあ『じぶん』ってなに?」という疑問。もちろん今を生きる一般人はこんな心配は(たぶん)いらないんだけど、「もしも」を考えだすと夜も眠れなくなりそう。鷲田清一の出番かもしれない。

じぶん・この不思議な存在 (講談社現代新書)

じぶん・この不思議な存在 (講談社現代新書)

戦争が経済活動になっている世界は、まさにメタルギアソリッド4

この『虐殺器官』の世界では、戦争がある種の経済活動になっていて、「民間会社の戦闘員」みたいなのがいる。

というか今まさに現実世界にも存在する。→民間軍事会社

作中ではこの「戦争経済」という面にはそれほどスポットライトがあてられてない。この面にスポットライトがあたっているのが、ゲームのメタルギア ソリッド 4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット

著者はこのゲームやディレクターからも大きく影響を受けていて、本も書いてたりする。

メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット (角川文庫)

メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット (角川文庫)

『虐殺器官』と『メタルギアソリッド4』では共通する部分がかなりあって、たとえば

草むらに隠れて横たわると、ナノコーティングが周囲の色相をスキャンして、リアルタイムで変化するパターンを生成する。環境追従迷彩。潜伏にはありがたいテクノロジーの魔法だ

は、ゲームの中で主人公のスネークが身に付けるスーツそのもの。

結構操作が多いゲームなので、「虐殺器官を読んだらゲームもぜひ!」とは言えないけれど、「ゲームをやったら虐殺器官もぜひ!」とは声を大にしていいたい。

シンクロして、よりスッと入ってくる。自分もそうだった。

読み識視点

考察が甘い、とか言われてるけど気にならない

最初にも言ったように、別にSFマニアじゃないから詳しいことはわからない。

でも面白いか面白く無いかで言ったら「確実に面白かった」。毎日職場で昼休みに読んでたんだけど、最初はごはん食べてから読んでたのが、途中からごはん食べながら読むようになった。

Amazonのレビューとかで「考察や根拠が微妙だ―」みたいに書かれているけど、大半の人は気にしなくていいんじゃないかな。

スッキリさわやかな気分になりたい人には向かないけれど、タイトルと表紙のおかげでそういう人は開かないハズ。

少しでも気になった人は読んでソンなし!